kunsun’s diary

~日々、小さな愉しみをさがして~

太王四神記~運命に翻弄される人の定め、ホゲ

運命に翻弄される人の定め 

 高句麗の第一貴族ヨン・ガリョと、王の妹であるヨン夫人との間にホゲは生まれた。それはチュシンの星の輝いた夜。「その星の輝く時、チュシンの王が天から遣わされる」と預言された星である。王家の血を引くヨン夫人は、わが子こそがチュシンの王と確信する。ホゲはこの母から、王としての教育を受けて育った。チュシン王の再来と目され、母の愛情と期待を一身に受けて育ったホゲは、そうして育った者の持つ朗らかさと寛容さを持ち、武術にも長けた好感の持てる少年だった。タムドクにとってホゲは従兄弟であると同時に、気さくに話しかけてくれる唯一の友人だった。ホゲがタムドクに槍を教える場面は後にたびたび回想されるが、それは、次第に残虐な人間に変わっていくホゲの無垢な少年時代の姿を、効果的に思い出させる。

 そんなホゲが変わるきっかけとなったのは、ヨン夫人がタムドクの父の毒殺を図った事件だった。後継のいない王が亡くなった時、次の王はチュシン王再来のホゲしかいないとヨン夫人は信じていたが、王が亡くなる直前に跡継ぎに指名したのは、王の弟でありヨン夫人の兄であるタムドクの父だった。この兄妹の母である先王の妃は捕虜として前燕にとらわれていた時期があり、その地から戻った後に生まれたのがタムドクの父だったため、タムドクの父を宿敵前燕の子と噂するものがあった。実際には、捕虜となった時すでに先王妃は身ごもっていたので、タムドクの父は正真正銘、高句麗王家の血筋なのだが、世間の目は厳しく、タムドクの父は世捨て人のごとくひっそりと暮らしていた。世間と同じくタムドクの父を兄と認めないヨン夫人にとって、そんな人間が王位に就くことも、ホゲに比べていかにもひ弱なタムドクが王位を継ぐ太子になることも、許せるはずがなかった。実はタムドクがホゲと同じくチュシンの星の輝いた日に生まれ、『チュシンの王と気づかれぬよう隠して育てよ』との天地神堂のお告げで、病弱で愚鈍であるよう振る舞っていたことを、夫人が知る由もない。王の即位をどうしても認められなかったヨン夫人は、我が子のため、チュシン国のため、王となったタムドクの父の毒殺を計ったのである。

 このヨン夫人、美人の女傑でヨン家を牛耳り、兄を兄とも認めず、火天会の人間から毒を仕入れて兄の暗殺を図るあたりいかにも悪女のようだが、実際には最愛の息子を立派な王にすることに命をかける一人の母だ。結局はタムドクに陰謀を暴かれ自決に追い込まれるのだが、死ぬまでホゲをチュシンの王と信じ、チュシンの王になれとの言葉を遺す。その言葉が、その後のホゲをチュシンの王に縛りつけることになるのだが、それにしてもなかなか天晴れな女性である。

 そんな母の死を目の当たりにしたホゲの悲嘆は、タムドクへの憎悪に変わる。チュシンの王を生んだという誇りを胸に、息子を立派な王に育てる使命感に燃えていたヨン夫人にとってホゲが人生の全てであったように、ホゲにとっても母は自分を愛し導いてくれる唯一無二の存在だった。陰謀の顛末を聞かされても、最愛の母を死に追いやった者を許すことはできない。それまでは太子タムドクに対して自分の立場をわきまえていたホゲだったが、母の仇を討つために王になることを決意する。

 また火天会の思惑通りキハに心を奪われていたホゲにとって、タムドクは恋敵でもある。いくら想いを伝えても、キハはタムドクを慕っていると告げ、つれない。母の命のみならず愛する人の心も奪っているタムドクだ。憎さ倍増して当たり前だ。

 それでもドラマ前半は、ホゲにも人としての正義や優しさが残っていた。ホゲを王にと目論む火天会と父親の陰謀でタムドクを追い詰めた時も、タムドクを守ろうとするキハにほだされてタムドクを見逃してやる。しかしそれが父親の逆鱗にふれ、それ以降ホゲは一切の情けも正義も捨て、王になるべく邁進していく。そしてドラマ後半では、血も涙もない残虐な大将軍となって軍を指揮し、やがて民衆のみならず軍内部の支持すら失っていく。その一方でひたすらにキハを愛し、その言動に振り回され続ける。最後は「タムドクを殺し天の力を手に入れて欲しい」というキハのために戦い、タムドクに敗れて命を落とす。運命に翻弄された人生だった。

 神の子の転生であり天から遣わされた王であるタムドクは、人として非の打ちどころのない真の王だ。対してホゲは、周りに流され悪い方に変貌を遂げる危うさを持つ人間そのものだ。悩み苦しみながらも、それに抗えない。「人間は残酷だ。自分を見ればわかる」ホゲのこのセリフと生き様は、人の持つ危うさをそのままま投影している。だからこぞ、ホゲからも目が離せない。ホゲに惹かれる理由はそれだけではない。主人公の敵役ながら、愛に生きているからだ。タムドクへの憎悪の根底は母への愛であり、キハへの愛はその生涯において貫かれている。最終話、キハがタムドクとともに死ぬ気であることを悟り、こうつぶやく。「天の力を手に入れたとて、それを誰のために使うのだ」

 残虐な役回りでありながら、母のため、愛する人のために戦い続けたホゲ。来世でキハと結ばれますようにと、願わずにられない。

ーつづくー